お国柄が出る? ユニークな学部・学科を持つ大学 ~イギリス編1~
世界各国にある大学は、それぞれの国や地域、都市によって特徴が異なり、日本の大学ではなかなか深く学べない内容の学問を提供している学校も数多くあります。海外留学を考える際には、大学ランキングのみにとらわれず、自分が本当に興味・関心のある分野を大学選びの観点の1つとして持つことが非常に大切です。後悔しない留学・大学選びの手助けとなるよう、“国によって特徴的かつユニークな学部・学科をもつ大学”を紹介している本シリーズのラストは、「イギリス編」を前編・後編に分けてお送りします。今回は前編として、各地の風土・産業や文化に根付いたユニークな学部・学科をもつイギリスの大学を、5校ご紹介します。
イギリスの大学教育の特徴
古い伝統と、最新のカルチャーが共存する国として、世界に名をはせているイギリス。質の高い教育を提供していることでも知られており、過去数百年にわたって世界中から多くの留学生が集まる国でもあります。正式名称はUnited Kingdom of Great Britain and Northern Ireland、日本の外務省による表記では「英国(グレートブリテン及び北アイルランド連合王国)」)となります。
ユーラシア大陸の北西に位置するクレートブリテン島をはじめとした多くの島々を国土とし、イングランド、スコットランド、ウェールズ(この3つがグレートブリテン)、及び北アイルランドの4地域から構成されている連合王国で、18世紀半ば~19世紀には経済的にも文化的にも大きな発展を遂げました。多民族国家ですが、英語発祥の国として英語が広く公用語として使われています(地域によってはウェールズ語やゲール語なども公用語として使用)。4つの地域にはそれぞれ首都があり、地域ごとに特有の文化が育まれています。教育制度も4つの地域それぞれで、共通性を持ちつつも特色ある制度を形成していますが、全人口の9割を占めるイングランドとウェールズについてはほぼ同様の学校制度を有しています。
~ここからは、主にイングランドを中心とした大学教育制度についてご紹介します~
イギリスの高等教育機関には、大学やユニバーシティ・カレッジ、スクール(専門学校)などがあります。学位取得が可能な大学・大学院、カレッジなどは180校以上あり、そのほとんどが国公立で、国が設立した高等教育基金機関(HEFC: Higher Education Funding Council)から資金の提供を受けています。世界的な名門と言われるオックスフォード大学やケンブリッジ大学をはじめとして、教育水準は総じて非常に高いことで有名です。イギリスの大学の教育の質と水準は、公的機関であるQAA(高等教育質保証機関)による厳しい審査によって保証されています。審査結果はオンライン上で公表されており、各大学の評価を誰でも知ることが可能です。
大学の学士課程は、通常3年間(スコットランドは4年間)。多くの大学では一般教養課程がなく、1年目から専門課程がスタートする3年制をとっています(医学や獣医学、建築学など専門の資格に直接結びつくコースでは、修了するまでに5~7年が必要です)。一般的に、9月スタートの3学期制の学校が多く、授業は講義(レクシャー)形式やセミナー形式に加え、チュートリアルと呼ばれる教授との個人授業があるのがイギリスの大学の特徴です。自然科学系や芸術系の分野では、これに実験、実習が加わります。
また、学士過程にはいろいろな形式のコースがあり、自らの学びたいことにあわせて選択することができます。たとえば、3年間で1つの科目だけを専攻し、その分野に専念して狭く深く研究する Single Honours Degree (シングル・オナーズ)、2つ以上の科目を同時に専攻し、複数の分野を組み合わせて学位取得を目指す Combined/Joint Honours Degree (コンバインド/ジョイント・オナーズ)、専攻する学科にしばられず、さまざまな学科での単位取得が可能な Modular Degree Courses (モジュラー・ディグリー・コース)など。サンドイッチ・コースと呼ばれるコースでは、通常の3 年間の学士号コースに1年間の企業研修や留学をプラスして、4年かけて学士号を取得します。
取得可能な学位には、BSc(Bachelor of Science:自然科学分野での学士号)、BA(Bachelor of Arts:人文科学分野での学士号)、BEng(Bachelor of Engineering:工学系の学士号)などがあり、それぞれのカリキュラムの内容は科目と直接関連しているため、とても専門性が強くなっています。いずれにせよ、イギリスの大学は選んだ分野を深く掘り下げていく学び方のため、「何を、どう学びたいか」は入学前からある程度イメージしておくとよいでしょう。
イギリスには大学入試がなく、16歳までの義務教育の終了時に、進学や就職にあたって成績が重視される「GCSE(General Certificates for Secondary Education)」という統一試験を受けます。その後、大学進学希望者は「GCE-Aレベル(General Certificate of Education, Advanced Level)」と呼ばれる大学進学に必要な資格試験を受験するための準備をするために、Sixth form(シックスス・フォーム)やカレッジなどの2年間の学習課程に移行します。 Aレベルの学習では、進学を希望する大学のコース要件に応じて3~4科目を選択して専門的に勉強します。通常、18歳時に大学入学資格として認められている統一試験・ GCE-Aレベルを受験し、その成績によって進学できる大学が決まります。イギリスと日本では教育制度が異なるため、 GCSE や GCE-Aレベルを受けていない日本の高校の卒業生は大学付属のファウンデーションコース、もしくは私立のファウンデーションカレッジで、専攻する分野の基礎知識と共に、英語やカレッジスキルと呼ばれるレポートの書き方やノートの取り方などのスキルを身に着けてから、大学に入学するのが一般的です。
※International Baccalaureate (IB)の学生は、高等学校の卒業後にそのまま大学の専門課程に入学が可能です。
ユニークな学部・学科をもつイギリスの大学 ~5校~
キャンパスのある国・地方の風土や環境、文化、その土地の産業などと結びついたり、影響を受けたりしている、特徴的でユニークな学部・学科・専攻を持つイギリスの大学を5校ピックアップしました。
ロンドン大学東洋アフリカ研究学院 (SOAS University of London: School of Oriental and African Studies, University of London 〔SOAS〕)
開発学(Development Studies)
東洋アフリカ研究学院(通称:SOAS)は、ロンドン大学に所属する学校の1つで、1916年に創立されたイギリス唯一のアジア・アフリカ・中東を中心とした地域研究に特化した教育機関です。ロンドン大学を構成する他の学校と同様に、独自の学位を授与する個別の大学として扱われることがほとんどです。メインキャンパスはロンドンの中心部ラッセル・スクエアにあり、大英博物館や大英図書館などの文化施設が至近距離に点在する文教地区として有名なブルームスベリー地区に位置しています。
アジア、アフリカ、中近東について専門的に研究できることから、正規過程における留学生の割合が約50%と非常に高いのが特徴です。学生は学部生・大学院生あわせて5,200人ほどと規模は小さいですが、130を超える国・地域から学生が集まっており、キャンパスは非常に国際色豊かです。300人以上の専門的な教授陣が揃い、世界クラスの教育が行われています。
SOASは学術的に5つの学校、10の学科、5つのセンターで構成されています。人文社会学のほぼすべての分野をカバーし、学部課程では法律、政治、経済学、金融、ビジネス、経営、芸術、人文科学、言語の組み合わせで、350以上の学位が提供されています。 中でも注目は「開発学(Development Studies)」。 SOASの開発学はQSの2019年の分野別ランキングで8位にランクされており、世界的にも非常に高い評価を得ています。
もともと開発学はイギリス発祥の学問として知られ、国内でも人気のある分野です。社会学分野の1つとして、国際開発や人道的活動について研究する学問で、移民、紛争、政治的生態、援助など、複雑かつ重要なグローバル課題を幅広く扱います。 QSの2019年ランキングでは、トップ10に6校もの大学がランクインしているほど、イギリスは国際開発学の本場と言われ、世界の研究をリードしています。 開発学を専門的に扱うのは修士課程の場合が多いですが、ロンドン大学では学部課程で開発学を学ぶことができます。とくにSOASの開発学科(Department of Development Studies)では、途上国開発における理論と実践分野での、確かで学際的な社会科学研究に特化した開発学コースに加え、政治経済学、経済学、政治学、人類学、歴史、地理、法律、言語学などの関連分野の学際的なアプローチを組み合わせたコースも専攻することができます。アカデミックスタッフは政治経済学やグローバリゼーション、移民問題、紛争、人道的行動、労働、政治的生態学、援助など、開発学における主要テーマの専門家が集まっており、学生たちが開発問題についての幅広く学際的なアプローチ能力と、知的研究に必要な基礎知識の習得ができるようなプログラムがデザインされています。取得できる学位は、「BA Development Studies」(開発学の学士)もしくは他の科目・テーマと組み合わせた「BA Development Studies Combined Honors Degree」となります。
エセックス大学(University of Essex)
英語教授法(TEFL/TESOL)
1964年に設立された研究型大学で、メインキャンパスはロンドンから1時間ほどのコルチェスターに位置しています。ほかにロンドン郊型のロートンと、エセックス地方の海岸沿いの町サウスエンドにキャンパスを構え、約12,000人の学生が学んでいます。教育水準と研究業績において、すべての学部が常に国内でトップレベルに数えられており、とくに社会科学の分野は国際的に非常に高い水準と評価されています。
同大学は、人文学部、科学・健康学部、社会科学部の3つの学部で構成されており、これらの学部内には20近い学科があります。注目のコースの1つが会科学部の中にある言語学科で、国際的に著名な教授陣が教鞭をとっています。言語学に関して国内トップ10位内に入る研究が行われ、また、国内唯一の翻訳・通訳・字幕コースも提供しています。
同学科の中でも人気なのが、TEFL/TESOLと呼ばれる語教授法。TESOL(Teaching English to Speakers of Other Languages)は、英語を母国語としない人々に、英語を教える効果的な方法のことで、イギリスで人気が高い専攻の1つです。インドやフィリピンのように英語が第二外国語として定着している国向けの教授法はTESL (Teaching English as a Second Language)、日本のように英語が定着してない国向けの教授法は TEFL (Teaching English as a Foreign Language)とも呼ばれています。英語発祥の地であるイギリスは、その歴史的背景から英語教授の研究が発展している国であり、長い間言語教育において先進的な役割を果たしてきました。現在、世界で使われている教授法の多くがイギリスで考案されたものです。イギリスの大学でTESOLを学ぶコースは、おおむね修士レベルで提供されていますが、エセックス大学では、学士レベルで「TEFL」を学べ、修士で「TESOL」を学べるコースが提供されています。
学部課程の「BA Teaching English as a Foreign Language(TEFL)コースでは、英語の構造や基礎知識、第二言語学習の方法論などを学び、TEFLの実践的トレーニングに取り組みます。修士課程の「MA Teaching English to Speakers of Other Languages(TESOL)」コースは、理論と実践のバランスのとれたコースであり、第二外国語を学ぶ人々が語彙を習得する方法論、コンピューターを使用しての教授法、カリキュラムの組み方など、第二外国語としての英語教師に必要なスキルを身につけます。
リバプール大学(The University of Liverpool)
起業学(Entrepreneurship)【修士】
イングランド北西部のリバプールに位置し、1881年の設立以来、ノーベル賞受賞者を10人近く輩出している名門の研究大学。イギリス国内で、歴史ある大学群を示すRed Brick Universities(赤レンガ大学)の1校であり、一流の研究主導型大学で構成されるラッセルグループの一員でもあります。世界で最初に建築学科を設置した大学としても知られ、建築学はもちろん、伝統ある医学、薬学、化学などの分野においてトップクラスの研究功績を誇り、近年は音楽産業を研究するコースや、スポーツ、とくにサッカー産業に特化したMBAなど革新的なコースなども人気を博しています。
学生数は2万人を超える大規模校で、科学・工学、健康・生命科学、人文・社会科学の3つの学部に、70を超える学科が用意されています。中でも、人文・社会学部の修士課程で提供されている「企業学」コース(Entrepreneurship MSc)に注目。イギリスは企業学(アントレプレナーシップ)教育に非常に力を入れている国として知られています。地方企業・新興企業の成長促進を目指して行政が積極的に投資を行い、地元の大学と企業の協力体制を整えてきた経緯があり、その重点地区の1つがリバプールです。
同コースでは、修了に起業家的意義のある革新的プロジェクトを管理する能力や、自らが起業家となる力を身につけることを目指します。学生は、ライブケーススタディを使用したハンズオンプロジェクトに参加し、独自のビジネスアイデアに取り組むか、地元の中小企業と協力して「起業家マーケティング」による実践的な経験を積みます。また、最先端の評価形式として、企業教育へのユニークなアプローチが導入されています。学生の評価は、現代のビジネス環境で、すべての起業家マネージャーに不可欠なビジュアルメディアスキルを開発する「起業家のビジネスイノベーション」というビデオを制作することで行われます。
エジンバラ大学(The University of Edinburgh)
パフォーマンス衣装(Performance Costume)
スコットランドの首都であり、世界遺産にも登録されている国際都市・エジンバラの中心に位置し、スコットランドの教育と研究の中心的な役割を果たしてきた名門大学。創立は1583年と英語圏で6番目に古く、イギリスで最も歴史あるAncient Universitiesと呼ばれる大学グループの1校にも数えられています。各種大学ランキングでは常に上位にランクインしている、世界トップクラスの研究大学でもあります。
エジンバラ大学は人文・社会科学、科学・工学、医学・獣医学の3つの学部で構成されており、その中には20の学科があります。学部生・大学院生あわせて約35,000人の学生が学んでいますが、そのほとんどが最大の学部である人文・社会科学部に所属しています。また、世界の140近い国・地域から5,000人以上の留学生が在籍しており、非常に国際的な環境でもあります。同大学では300以上の多様なコースが提供されていますが、経営学をはじめ、建築学、考古学、言語学、社会学、工学、哲学、心理学等の多くの分野で非常に高い評価を得ています。
イギリスでは総合大学の多くに芸術学部(学科)が設置されていますが、エジンバラ大学にも人文・社会科学部の中に芸術カレッジ(Edinburgh College of Art)があります。伝統的文化とポップカルチャーが混じり合う芸術都市・ロンドンを首都に持ち、クリエイティブ分野においても世界を牽引するイギリスは、世界各国から優秀なアーティストが集まり、これまでに多くのクリエイター・デザイナーを輩出してきているアート・デザインの先進国でもあります。同大学の芸術カレッジは、建築、アート、デザイン、美術史、音楽のコースに分かれており、それぞれに様々な専門的プログラムが提供されています。デザイン学科には、パフォーミング・アーツの分野も盛んなイギリスらしく、「パフォーマンス衣装」のプログラム〔Performance Costume – BA (Hons)〕があります。現代社会における芸術とデザインの役割、特に舞台芸術における衣装デザインの役割を探るプログラムで、舞台とスクリーンのコスチュームデザインとメイキングの両方の専門的なトレーニングを提供しています。研究、キャラクターのデザイン、テキスタイル、ミリー、コンピュータースキル、イラストからパターンカットやコスチュームの構築まで、コアスキルのレパートリーを開発します。さらに、テキスト、音楽、パフォーマンスの概念に対応し、同時に革新的でパフォーマーの役割をサポートする衣装のデザインを開発することを学んでいきます。
レスター大学(University of Leicester)
博物館学( Museum Studies)【修士】
イングランド中部に位置し、ヴィクトリア建築の街並みが美しい都市・レスターにキャンパスを構えるレスター大学。1921年に設立された、規模は小さいながらも質の高い教育・研究成果を誇るイギリスでも屈指の名門大学です。各学部棟は徒歩数分程度の距離に建つコンパクトなキャンパスでは約18,000人の学生が学んでおり、温かく親しみやすい雰囲気が特徴。キャンパスの中心部には巨額の費用を投じて建設された David Wilson Library(中央図書館)があり、100万冊を超える書籍を所蔵しています。他にも、1500席もの自習室、プラズマディスプレイ付きグループスタディルーム、ITシステム、さらには本屋やカフェなどが完備されたこの図書館は、学期内は24時間開放されており、学生が自分のスケジュールに合わせて利用できる快適な学習環境が提供されています。
イギリスを代表する大学の1校に数えられる同大学は、革新的な研究が国際的に高く評価されており、25に及ぶ研究分野でトップレベルの評価を受けています。学際的なカリキュラムのもとで医学、物理学、宇宙科学、経済学、工学、遺伝子学、数学など350以上のコースが開講されています。犯罪捜査やセキュリティ管理において多大な影響を与えたDNA遺伝子指紋法の開発・研究により、同分野でのパイオニア的存在として世界をリードしているほか、大学付属の宇宙科学研究センターはヨーロッパ最大規模を誇り、宇宙開発分野でも世界を牽引しています。
加えて、注目したいのは修士の博物館学(Museum Studies)。博物館学はもともと、博物館と来場者をどのように繋げていくのかを研究する学問でしたが、現在は博物館、ギャラリー、文化遺産の在り方について、他の分野とも積極的に共同研究を行い、それぞれの専門知識を共有しながら、様々な観点からクリエイティブかつ批評的に学んでいく学問分野となっています。大英博物館をはじめ、国際的な文化施設が数多くあるイギリスでは、業界のプロフェッショナルとの繋がりを活かし、実践的なトレーニングとセオリーをバランスよく織り交ぜたコースが提供されています。
世界最高峰の評価を得ているレスター大学の博物館学コース(修士)は、研究、教育、思考、討論、実践のための世界をリードするハブとして講義、セミナー、ワークショップ、実践的なセッションが行われます。毎年30人以上の美術館の専門家が同コースを訪れて講義を行い、現代の美術館やギャラリーの仕事について貴重な知識や洞察を提供してくれます。また、すべてのフルタイムコースで博物館やギャラリーへの定期的な訪問が実施されており、実用的な環境でスキルを磨く貴重な機会をえられるほか、美術館・博物館での8週間のインターンもカリキュラムに含まれています。学位論文の内容によって、MA(芸術修士)もしくはMSc(科学修士)を取得できます。
次回は、イギリス編2として、ユニークな学部・学科をもつイギリスの大学をさらに5校ご紹介します。お楽しみに!
※この記事でご紹介している内容は2020年2月7日現在の情報に基づいています。
※この記事は、旧GLCウェブサイトの「グローバル海外進学コラム」2020年2月7日に掲載されたものです。