お国柄が出る? ユニークな学部・学科を持つ大学 ~アメリカ編1~
世界には様々な国があり、その国ごとに様々な大学があります。同じ「大学」とはいえ、実は国によって大学で学べる学問にはかなり特徴が出ているのも事実。その土地に根付いた産業や文化にまつわる学問が、大学・学部の特徴として現れてくるものなのです。加えて、今までになかった新しい学問も、世界では次々と誕生しています。日本の大学ではなかなか深く学べない内容の学部や学科、コースも海外では豊富にあります。「人気」や「ランキング」にとらわれない、自分が本当に興味・関心のあるモノ・コトを大学選びの観点の1つとして持っておくと、後悔しない留学につながるのではないでしょうか。そこで新たに、このコラムでは“国によって特徴的かつユニークな学部・学科をもつ大学を紹介する“シリーズをスタートします。最初はアメリカから!前編・後編に分けて5校ずつご紹介します。
アメリカの大学教育の特徴
アメリカには4,000校をはるかに超える大学があり、うち約1,600校(35%程度)が公立大学、約3,000校(65%程度)が私立大学です。大学数では私立大学のほうが多いものの、学生数は公立大学に通う学生が全体の70%超と、圧倒的に私立大学より公立大学のほうが多いのが現状です。また、アメリカには大きく分けて4年制大学と2年制大学があり、大学数・学生数ともに4年制大学の割合が約70%、2年制大学の割合が約30%となっています。2年制大学から4年制大学へ、または4年制大学からほかの4年制大学への編入学が比較的盛んに行われている柔軟性・多様性も、アメリカの大学制度のポイントです。
アメリカの大学教育は、人間としてバランスがとれ、幅広い知識をもったリーダーを育てることを目的としています。「自らが学ぶ」ことを重視しており、その理念に基づいてさまざまな教育システムが構成されています。学部・学科、コースなどは、文系/理系といった概念はなく、リベラルアーツとサイエンスの概念に基づいた学問分野が提供されています。多くの日本の大学のように通年制で在学期間によって学年が決まるような方式ではなく、「単位(クレジット)制」で、各学期のコースが終了するごとに成績がついて単位を取得し、取得単位数によって卒業が決まります。
4年制大学(CollegeまたはUniversity)の場合、ほとんどの大学が1~2年次に一般教養課程の単位取得を行います。文学、アート、数学、社会科学、科学などの必修科目をバランスよく履修することが求められ、その後、2年次後半~3年次前半までに専攻科目(Major)を決めるシステムとなっています。医学、薬学、法学といった専門的な分野は、大学院レベルで学ぶものとされているため、学部課程レベルでは専攻自体が存在せず、専門分野以前に優れた教養を身につけることが重視されていることがわかります。
大学出願時に詳細な専攻・専門分野を必ずしも決める必要はありませんが、非常にユニークな学科・学部が設置された大学は数多くあり、それぞれに特徴や強みがはっきりしているのが、アメリカの大学の特徴といえるでしょう。
ユニークな学部・学科をもつアメリカの大学(1) ~5校~
その土地に根付いた産業や、風土、環境、文化にまつわる特徴的でユニークな学部・学科をもつアメリカの大学を5校ピックアップしてみました。
ディープ・スプリングス大学(Deep Springs College)
ディープ・スプリングス大学は、1917年に設立された私立の2年制大学です。アメリカで最も珍しい高等教育機関の1つと言われるリベラルアーツカレッジで、カリフォルニア州東部にあるビショップという最寄りの町から約40マイルという人里離れた大きな砂漠の中に位置し、155エーカーの牧場を有しています。アメリカの優れた学校を紹介しているオンラインメディア「The Best Schools」が、2017-2018年版の全米カレッジランキング(The Top 50 Undergraduate Colleges in the United States for 2017–18)で1位として紹介するまで、アメリカ国内でもほとんど知られていなかった、まさに“知る人ぞ知る”エリート大学です 教育プログラムは、学問、自治、および労働の3つの柱に基づいています。毎年12人から15人の学生が入学し、全体でも学生の数は常に30人以下。すべての学生に完全な奨学金が与えられるため、学費(授業料)をはじめ、住居や食費もすべて無料。その代わり、学生たちは週に少なくとも20時間は労働をすることが求められます。午前中に授業を受け、午後は農場や牧場での作業、調理や清掃、施設や車両のメンテナンスに至るまで、日常的な仕事に参加します。テレビもインターネットもない砂漠の真ん中で、大自然と共に生きるという広い意味での学びの機会が提供されています。
2年制大学のため、修了すると教養学の準学士号のみを取得できますが、卒業生の多くは4年制の全米トップ大学に編入していくことでも注目を集めています。
コーネル大学(Cornell University)
農業生命科学部〈CALS〉 (College of Agriculture and Life Sciences)
1865年に創立され、アメリカの名門私立大学の代名詞ともいえるアイビーリーグを構成する8大学のうちの1校。ニューヨーク州イサカにメインキャンパスを持ち、ニューヨーク州立大学とも提携している半官半民の大規模な総合大学です。非常に多くの科目が提供されている中でも、工学、ビジネス、建築、ホテルマネジメントが有名で、全米でもトップレレベルと言われています。
農学・生命科学部〈CALS〉はニューヨーク州と提携している教育ユニットの1つで、学内で2番目に大きい学部。全米における農業および関連科学のトップカレッジとしても知られています。キャンパス内に川が流れ、滝が落ち、湖もあるという豊かな気前環境の中で、農業、生命、環境、社会科学の分野において世界有数の科学的リサーチが展開されています。
学部課程でユニークな専攻分野は「昆虫学(Entomology)」。海外では比較的メジャーな学問ですが、コーネル大学の昆虫学専攻はアメリカ初の昆虫学科の本拠地として、地球上で最も多様な生物群である昆虫に特に重点を置いた生物学・環境科学を研究しています。人間医学および獣医学、農業、生物多様性、ゲノミクスなど、さまざまなレベルで人間の生活に幅広く影響を与える、昆虫生物学、神経生物学システムその他の多様な研究に参加することができます。
また、珍しい専攻としては「ブドウ栽培とワイン醸造学」があります。ブドウ栽培とワイン醸造に関して学び、ワイン業界のリーダー育成を目指す専攻で、プログラムには化学、生物学、植物科学、コミュニケーションと統計学、ワイン醸造、ブドウ園開発、経済学、管理のコースワークや、ブドウ園と教育ラボでのワインとブドウの生産の実地体験などが含まれます。寒冷気候、土壌、ブドウ品種、害虫、市場といったニューヨーク地域特有の課題に対処し、他の地域の栽培およびワイン製造技術の強力な基盤が提供されています。
ネバダ大学ラスベガス校(University of Nevada, Las Vegas)
ホテル経営学(College of Hospitality)
1957年に創立された州立大学で、およそ25,000人が在籍するネバダ州で最も大きな総合大学です。毎年4,000万人以上が訪れる世界的にも有名な一大エンターテインメント都市であるラスベガスに位置し、学部・大学院あわせて300を超える専攻を提供する都市型研究機関となっています。比較的新しい大学ながら、その成長は目覚ましく、ホテル経営学や法科大学院、建築学、芸術、科学、教育学などの分野で、全米トップランクの高い評価を受けています。キャンパスには多くの自然に関する資料館・庭園や、美術館・コンサートホール・劇場などを有するパフォーミングセンターなど芸術に関する設備も充実しています。
同大学でなんといって特筆すべきは、ホテルの総客室数が15万を超えるとも言われる世界有数の観光都市という立地を生かした「ホテル経営学」。William F. Harrah College of Hospitalityで、関連する観光・旅行ビジネスなどを含め、幅広い分野を学ぶことができます。
ホスピタリティマネジメント専攻では、ホスピタリティ業界でのキャリアに対する幅広い教育的アプローチを提供しており、ホスピタリティ、人事管理、組織行動、施設管理、ホスピタリティ法、リーダーシップ、管理、倫理のコースなど、業界に特化したクラスを取ります。さらに食品衛生、外食業務、コスト管理、キャリア開発、財務および管理会計、財務管理、ホスピタリティサービス管理、および運用と戦略的管理を学びます。カジノ業界に携わりたい人向けのゲームマネジメントの学位や、PGAに認可されたゴルフ・マネジメント、レストランマネジメント、会議・イベントのマネジメントなどの学位も選択することが可能です。
ラスベガスには、多数のホテルに加え1,000以上のレストラン、コンベンション、トレード・ショーなどがあり、まさに街全体がホスピタリティーの生きた勉強の場となっているため、すべての専攻は多くのインターンシップを通して実践的に学んでいく環境が整っています。
ロチェスター工科大学〈RIT〉 (Rochester Institute of Technology)
コンピューティングセキュリティ(Computing Security)・ゲームデザインおよび開発(Game Design and Development)
1829年に創立されたロチェスター工科大学は、ニューヨーク州西部のロチェスター郊外に広大なメインキャンパスを持つ私立の工科系総合大学です。学部教育に力を入れており、工科大学という名称ながら、科学技術に加えて、リベラルアーツ、芸術・デザイン、ビジネスのプログラムも提供しています。コーププログラムと呼ばれる長期のインターンシップが重視されており、学部・専攻によっては必修となっていて、それにより同大学の就職率は非常に高くなっています。
工学、コンピューター科学、イメージ科学、写真・芸術などの分野で高い評価を受け、興味深い専攻が数多く用意されているロチェスター工科大学ですが、中でも注目は「コンピューティングセキュリティ」専攻。簡単に言えば、コンピューターのシステムやネットワークにおけるハッカーを阻止する技術等を学ぶ分野です。コンピューティングシステムやネットワークといったテクノロジーへの産業界や社会の依存度が劇的に増大している現代において、コンピューティングのセキュリティはビジネスの成功と継続性を確保するために、大小問わず組織にとって大きな関心事となっています。この専攻では、情報資産を保存し、コンピューターのセキュリティの脆弱性を特定し、攻撃の発生を特定し、損害の程度を評価してからデータ回復を保証する戦略を設計するまでに必要な知識が技術を習得していきます。プログラムの最初の2年間、コンピュータサイエンスと数学の強固な基盤を学び、3年目からはネットワークとシステムのセキュリティ、マルウェアとデジタルフォレンジック、ソフトウェアのセキュリティ、セキュリティの評価と管理など、コンピューティングセキュリティのさまざまな側面に関する詳細な研究を選択することが可能です。
また、「ゲームデザインおよび開発」専攻では、プロのゲーム業界やシミュレーション、エデュテインメント、視覚化などの関連分野でのキャリアを目指すことができます。コンピューティングの基礎に重点を置きつつ、ゲームデザイン、インタラクティブメディア、ユーザーインタラクション、アニメーション、モデリング、数学、科学、および計算ゲーム開発のコンテキストでのデザインに関する幅広い知識を獲得していきます。
コロラド大学ボルダー校(University of Colorado at Boulder)
天体物理学&惑星科学科(Astrophysical & Planetary Sciences)
コロラド州ボルダーにある1876年創立の州立総合大学。雄大なロッキー山脈の麓に位置する研究型大学であり、ハーバード大学なども名を連ねるアメリカ大学協会(AAU)の一員として、高水準の研究と教育を提供する大学として知られています。学士レベルでは85の専攻を有し、150の研究分野で3,600以上のコースが提供されています。学部は教養(芸術&科学)、ビジネス、工学&応用科学、音楽、環境デザイン、教育、継続教育、法学、メディアコミュニケーション&情報という9つで構成。特に工学&応用科学部の航空宇宙工学科が有名で、国際宇宙ステーションの開発に関わっていることもあって、最先端の宇宙開発関連の学問・研究を学ぶことができます。これまでに20人ほどのNASA宇宙飛行士を輩出しており、この分野においては全米有数の名門と言えます。
そのほかには、教養学部の天体物理学&惑星科学科も評価が高く、注目の学科です。宇宙物理学と惑星科学の両方を組み合わせた数少ないプログラムの1つであり、太陽系と比較惑星学、恒星および銀河天文学、宇宙論といった宇宙科学について包括的に学ぶことができます。大学の施設には天文台やプラネタリウムもあり、大学院の天体物理学科(APS)により提供されているプログラムでは、望遠鏡を用いた観測の優れた体験や、光学、係争、コンピューター画像処理およびモデリングの経験ができます。また、APSはボルダー地域の高高度観測所/NCAR、NOAA、NIST、サウスウェスト研究所といった有名な天体物理学の研究所とも連携しており、最先端の研究に触れる機会が提供されています。
次回は、アメリカ編2として、ユニークな学部・学科をもつアメリカの大学をさらに5校ご紹介します。お楽しみに!
※この記事でご紹介している内容は2019年12月27日現在の情報に基づいています。
※この記事は、旧GLCウェブサイトの「グローバル海外進学コラム」2019年12月27日に掲載されたものです。