お国柄が出る? ユニークな学部・学科を持つ大学 ~イギリス編2~
世界の国や地域、都市による特徴が色濃く出ているユニークな学部・学科を持つ大学を取り上げ、大学ランキングにとらわれず、自分が本当に興味・関心のある分野を大学選びの観点の1つとして持っていただくことを目指して展開してきたこのシリーズ。日本の大学ではなかなか深く学べないような、興味深い学問も多かったのではないでしょうか。今回はシリーズの最後として、「イギリス編」の後編をお届け。各地の風土・産業や文化に根付いた学部・学科をもつアメリカの大学5校をご紹介します。
ユニークな学部・学科をもつイギリスの大学(2) ~5校~
大学がキャンパスを構える地に根付いた産業と結びついたり、その国や地方の風土、環境、文化などに影響を受けたりしている、特徴的でユニークな学部・学科・専攻を持つイギリスの大学を、さらに5校ピックアップしました。
グラスゴー大学(University of Glasgow)
ケルト研究(Celtic Studies)・ケルト文明(Celtic Civilisation)【修士】
スコットランド最大の都市であるグラスゴーに、広い敷地と伝統的な建物、さらには博物館や美術館も含まれるキャンパスを構える名門大学。創立は1451年と英語圏で4番目に古く、500年以上の歴史を誇ります。イギリスで16世紀後半までに設立されたAncient University(古代の大学)と呼ばれる7大学の1校です。学生総数はおよそ29,000人、世界140以上の国・地域から留学生を受け入れている国内でも規模の大きな研究主導型の大学として、イギリスの一流研究大学で構成されるラッセルグループにも属しています。
大学は人文(芸術)学部(College of Arts)、社会科学部(College of Social Sciences)、医学・獣医学・生命科学部(College of Medical, Veterinary & Life Sciences)と理工学部(College of Science & Engineering)の4つの学部(College)からなり、さらに19の学科(School)で構成されています。イギリス初の工学部が設置されたことで知られていますが、ほかにも17世紀初期に設立されたという伝統を持つヨーロッパ最大規模の薬学分野や、国内最高峰と言われる医学・歯学・獣医学の分野でも高い評価を得ています。学内ではワールドクラスの研究が展開され、現在までに7人のノーベル賞受賞者を輩出しています。
人文(芸術)学部の特色は、スコットランドの歴史や文化等について学べるコースがいくつも用意されていること。とくに注目は、修士号プログラムであるケルト研究(Celtic Studies)やケルト文明(Celtic Civilisation)です。
ケルト研究コースでは、最先端の研究者による、ケルト語の語学学習とスコットランドの中世および現代のケルト文化に関する幅広いコースを組み合わせた学習機会が提供されています。最初の2年間でケルト文明やゲール語プログラムのコースを受講し、修了するとケルト研究( Honours)に進んで、ケルト社会のさまざまな側面を歴史的および文化的文脈で研究することができます。プログラムでは古代ゲール語、中世ウェールズ語、近代スコットランドのゲール語、現代のアイルランド語などを学ぶだけでなく、スコットランドの言語政策と計画や、ケルト芸術、中世初期のアイルランドとゲーリックスコットランドの信仰と文化、ゲールの民間伝承、古代ゲール文学などのケルトの文化と文学に関する幅広い分野を学ぶことが可能です。
ケルト文明コースはJoint Honours degree(共同名誉学位)としてのみ提供されており、ヨーロッパ大陸の初期から現在の英国諸島まで、ケルト人の歴史、社会の発展、文学、物質文化、芸術、宗教を研究しています。
ウェストミンスター大学(University of WESTMINSTER)
都市デザイン(DESIGNING CITIES: PLANNING AND ARCHITECTURE)
ロンドン中心部と北西部に計4つのキャンパスを持ち、うちウェストエンドの3つのキャンパスはそれぞれ徒歩圏内に位置する都市型大学。その設立は1838年まで遡り、イギリスで最初に誕生したポリテクニックである王立科学技術学院(Royal Polytechnic Institution) を前身としています。1992年に大学として認められ、現在では学部・大学院・専門課程あわせて9,000人以上の学生が学んでいます。
同大学はデザイン、クリエイティブ・デジタル産業カレッジ(College of Design, Creative and Digital Industries)、教養・科学カレッジ(College of Liberal Arts and Sciences)、ビジネススクール(Westminster Business School)の3つで構成されています。さらにその中はそれぞれ4つのスクールに分かれており、世界的な国際都市・ロンドンの中心であるビジネス・金融街、商業地区、ファッション・文化地区などに程近い立地を生かした、現代の世界経済やカルチャーに対応できる専門コースが多岐にわたって提供されています。ビジネス・経営の分野はもちろんですが、イギリスで最高評価を獲得したこともあるメディア・コミュニケーション研究の学部やファッションの学位の人気が高く、この分野では世界でもトップレベルとみなされています。ほかにもアート&デザイン、建築学、法学、生命科学、コンピュータ、言語学、国際関係学などの分野でも高い評価を得ていますし、医療関連分野や心理学、電気工学なども実績があります。また同大学はヨーロッパで初めて写真スタジオができたことでも知られており、理論、実践、批評の3つを掘り下げて勉強していく芸術学部の写真研究のコースが有名です。
興味深いプログラムが多数ある中で注目したいのが、ロンドンでしか学べない内容を提供している「都市デザイン:計画と建築(Designing Cities: Planning and Architecture BA Honours)」のコース。建築・都市学部(School of Architecture and Cities)の計画・住宅・都市デザイン(Planning and Urban Design)学科に設置されており、都市計画と設計、およびそれらが国際的・学際的な文脈において持続可能な開発にもたらす貢献について幅広い理解を深めることを目的とした新しい統合学位コースです。
カリキュラムは講義、セミナー、ワークショップ、フィールドトリップ、スタジオベースのチュートリアルなど、さまざまな要素を含んでいますが、半分以上はプロジェクト作業が占めています。都市設計とサイト計画のスキルを持ち、町や都市を形成する力と気候変動の課題を理解したうえでそれを実現できる専門的なプランナーを目指します。コースの初年度は「ロンドン学」ともいうべきコースで、学習環境としてロンドンを使用することに重点が置かれ、ロンドンという街のさまざまな部分を勉強することができます。
キングス・カレッジ・ロンドン〔ロンドン大学キングスカレッジ〕(King’s College London, KCL)
戦争学(War Studies)
ロンドン中心部のテムズ川沿いに4つ、デンマークヒルに1つ、計5つのキャンパスを構えるキングス・カレッジ・ロンドン。ロンドン大学を構成するカレッジの1つで、1829年に設立されたイングランドでは4番目に古い名門大学です。学生総数は31,000人以上と、ロンドン大学群の中では最大の規模を誇る研究主導型大学です。芸術・人文科学、ビジネス、歯科・口腔および頭蓋顔面科学、法律、ライフサイエンスと医学、自然科学および数理科学、看護・助産・緩和ケア、精神医学・心理学・神経科学、社会科学・公共政策という9つの学部を持ち、その中に多様な学科がそろっています。ナイチンゲールが世界で初めて看護学校を設立したことでも有名で、医学系の学科、特に看護学や歯学の分野で非常に評価が高く、世界ランキングでも常にトップクラスに位置しています。ほかにも人文科学、法律、科学および国際問題を含む社会科学では、世界的にも特に高い評価を得ています。
社会科学分野を担う社会科学・公共政策学部には、政治経済学や国際問題を扱うスクールなどがありますが、注目したいのが世界で唯一、同大学にしかない「戦争学科(Department of War Studies)」。セキュリティ研究科に属するこの学科は、「平和の追求に従事する」という目的のもと、戦争と国際関係の高度な理解を獲得することを目指す独自の学科です。そもそも国際関係学は政治学の専門分野の1つで、グローバル化が進む世界の中で国同士の関係や、人権、紛争、統合などグローバル開発が直面している重要課題を研究し、世界の外交や国際関係の分野で役割を果たすために必要なスキルを身につけることに主眼を置いた学問です。20世紀初めにイギリスで誕生した学問で、現在でもイギリスはアメリカと並んで世界の国際関係学分野を牽引している国と言われています。同大学の戦争学は、国際関係の幅広い権限の範囲の中で、戦争と外交に関する学際的な研究に専念しています。
学部課程における学位プログラムは、歴史、政治、国際関係、社会学、哲学など、戦争に対する幅広い理論的アプローチを習得することを必要とします。提供されている学士号は以下の4つです。
・「歴史・国際関係学士(History and International Relations BA)」:歴史学科と戦争学科の共同提供学位。歴史学部と国際関係コースの教育を組み合わせた、総合的かつ学際的プログラムです。
・「国際関係学士(International Relations BA)」:主要なグローバルな挑戦、課題、政治へのアプローチに取り組む学科をまたいだ学際的なコース。戦争学科、ヨーロッパ&国際関係学科(Department of European & International Studies)、国際問題科(School of Global Affairs)から学部横断の専門知識を学びます。
・「戦争研究学士(War Studies BA)」:戦争と紛争の人間の主要な課題に焦点を当てた伝統的なコース。政治、国際関係、哲学、社会学、歴史、戦略研究など、さまざまな特徴的な角度からトピックにアプローチします。
・「戦争研究・歴史学士(War Studies & History BA」:戦争と歴史の重要な要素に取り組む学科をまたいだコース。政治、国際関係、社会学、戦略研究など、さまざまなユニークな角度から被験者にアプローチし、批判的な分析と独立した思考プロセスを開発します。
ギルドホール音楽演劇学校(Guildhall School of Music and Drama)
演劇(Drama)
ロンドン中心部に本部を置く1880年創立の芸術大学。世界でも有数の演劇や音楽に特化した大学で、音楽学部、演劇学部、プロダクションアーツ学部があります。キャンパスには最先端のパフォーマンス施設が整っており、未来の音楽家、役者、劇場支配人、演劇技術者たちが、アーティストやプロとして成長するために、トップレベルの指導を受けながら日々学んでいます。学生総数は900人ほどで、うち700人程度が音楽を専攻し、200人ほどが演劇およびプロダクションアーツのプログラムに参加しています。学生の40%はイギリス国外から来ており、その国籍は約60の国・地域にわたっている国際的な芸術学校です。
同校では、舞台技術、専門教育、音楽療法の分野で優れた教育プログラムを提供しており、設立以来、ロンドンにおいて芸術教育の模範的役割を果たしていると言われています。アメリカと並んで演劇・ミュージカルなどのパフォーマンス・アーツ大国であるイギリスには、多くの世界的に有名な音楽や演劇の大学や専門学校がありますが、同校はイギリスの大手新聞「ガーディアン」が発行する権威ある大学ガイドで2013年・2014年と2回、音楽・演劇分野で全英1位を獲得しています。また、QSの分野別大学ランキング2019年版ではパフォーミングアーツ分野で7位にランクされています。
演劇学部(Drama Department)のプログラムは、オーディションプロセスの徹底と教育の情熱、質、厳格さで、世界で最も権威のある舞台芸術プログラムの1つとして高く評価されています。また、クラフトトレーニングの統合、個々の学生の発達に対するケアと注意、スタッフと学生が共有する強力なアンサンブル倫理で知られています。同学部では、学部および大学院レベルの演技トレーニングの学位が提供されています。加えて、中国・北京の中央演劇アカデミーとのダブルディグリープログラムで、演技研究の学士号( BA Acting Studies)プログラムも実施されています。
演技の学士号【BA (Hons) in Acting】のプログラムは3年間のフルタイムとなっており、最初の2年間はトレーニング期間として、プロの役者にとって必要なスキルを習得することに集中します。カリキュラムにはクラスワークとリハーサルプロジェクトがありますが、どちらも演技、音声、動き、プレイテキストという4つの主要な研究分野の開発と統合に重点を置いています。最終年度には学校の劇場や他のプロの劇場、国内外のテレビプロジェクト、およびエージェント、劇場、キャスティングディレクターが定期的に参加するオーディションショーケースで8つ程度、公演が行われます。学生はほとんどの時間をリハーサルとパフォーマンスに費やし、さまざまなスタイルの演劇でさまざまな役割を果たします。
オックスフォード大学(University of Oxford)
哲学、政治および経済(Philosophy, Politics and Economics)
イングランドの学生都市・オックスフォードに位置する総合大学。正確な創立年は不明ですが、1096年にはすでにオックスフォードで講義が行われていたという記録があることから、英語圏では最古であり、世界でも3番目に古い、伝統ある学術機関です。イギリスのみならず、世界でも常にトップクラスに君臨し、様々な分野で世界の教育・研究をリードしてきた有数の名門大学として知られ、イギリスの歴代首相やノーベル賞受賞者、オリンピックメダリストなどを数多く輩出しています。
同大学の大きな特徴は、38の独立したカレッジとパーマネント・プライベート・ホールと呼ばれる6つのカレッジで構成される「カレッジ制」を採用している点。各カレッジにはそれぞれ図書館があり、そのほとんどが24時間開放されています。大学全体で100を超える図書館システムはイギリス最大で、学習に必要な文献や資料が十分に取り揃えられています。学部に相当する組織としては4つのDivision(人文、数学・物理・生命科学、医学、社会科学)があり、その中に学科に相当するDepartmentやFacultyがあります。研究主導型大学として、最近の医学、ライフサイエンス、物理科学、社会科学、芸術および人文科学の分野において、世界トップ10の大学の1つに数えられています。講義はdepartmentレベルで行われますが、個別指導に力を注いだ教育形態をとっているのも同大学の特徴の1つ。とくに学部レベルではカレッジごとに自分の専攻分野で定評のある専門家との「チュートリアル」と呼ばれる1対1の指導(もしくは教授1人対学生数人の指導)が毎週行われています。
学部課程で注目したいのが「哲学・政治・経済(Philosophy, Politics and Economics)」というコース。PPEと略して呼ばれるこの学位プログラムは、名実ともに世界の一流大学であるオックスフォード大学の中でも看板学位といわれており、これまでに政治家や哲学者、ジャーナリストなど多くの著名人が学んできました。
PPEは1920年にオックスフォードで確立された学問で、現在ではイギリスの多くのトップ校に存在している、政治・経済とともに「哲学」を学ぶプログラムです。もともとはModern Greatsという通称で始まったとされており、政治・経済の思想はもともと哲学から派生したもので、すべての原点である哲学も同時に学ぶ必要があるという考え方から設立された学位となっています。PPEは非常に柔軟な学位でもあり、最初の1年は入門コースとして3つの分野すべてを等しく学びますが、2年目以降は2分野を専門として特化するか、3分野すべてを継続して学ぶか、選択することが可能です。さらに、哲学、政治、経済の包括的なテーマのもとで、関連する幅広い分野の選択科目が用意されているため、社会的・政治的概念やその歴史に触れつつ、経済学、哲学、政治学を網羅的に学ぶことができます。
※この記事でご紹介している内容は2020年2月14日現在の情報に基づいています。
※この記事は、旧GLCウェブサイトの「グローバル海外進学コラム」2020年2月14日に掲載されたものです。