お国柄が出る? ユニークな学部・学科を持つ大学 ~ニュージーランド編~
世界各国にある大学は、それぞれの国や地域、都市によって特徴が異なります。日本の大学ではなかなか深く学べない内容の学問を提供している学校もたくさん。海外留学を考える際には、大学ランキングのみにとらわれず、自分が本当に興味・関心のある分野を大学選びの観点の1つとして持つことが非常に大切です。後悔しない留学・大学選びの手助けとなるよう、“国によって特徴的かつユニークな学部・学科をもつ大学”を紹介しているこのシリーズ。今回は「ニュージーランド編」。各地の風土・産業や文化に根付いたユニークな学部・学科をもつニュージーランドの大学5校をご紹介します。
ニュージーランドの大学教育の特徴
国全体が自然豊かで、政情が比較的安定しているため治安が良く、衛生面や医療水準も高いことで知られるニュージーランド。公用語は英語とマオリ語、多様な民族が暮らす多民族国家であり、国民性は穏やかでフレンドリー。留学生の受け入れにも積極的で、国家を挙げて留学生の福利厚生に対する手厚いサポートが用意されていることでも有名です。主な英語圏の国と比べて生活費も割安、かつ気候も温暖で生活環境が良好ということもあり、留学先として人気が高まっています。
ニュージーランドでは、教育の質を保証するため、すべての教育機関に対して種類に応じた監査機関が設けられており、厳しく管理されています。総合大学はUNZ(Universities New Zealand)が担当し、教育プログラムの品質管理の検査、保証を行っています。国内にある総合大学は8校のみですが、その全てが国立大学で、国によって教育の質や設備の充実度が一定以上に保たれるよう厳しい管理が徹底されていることもあり、全大学がQS世界大学ランキング上位3%に入っています。
国立総合大学の学士課程は通常3年制。2学期制で、新学期は主に2月下旬から始まり、11月が学年末となります。学士号は3年で取得できますが、工学、法学、医学などは4~6年の履修が必要です。大学では学士号、修士号、博士号のほか、学部・大学院レベルのディプロマが取得できます。同時に二つの学士を勉強することも可能(Double degree)です。学位水準は高いレベルを維持しており、世界的にも認知されています。すべての大学でビジネス系および文系・理系の各種科目を開講しており、大学ごとに建築、医学、工学、法学、コンピューター、農学、科学技術そして環境学といった専門の得意分野を持っています。ニュージーランドは自然に恵まれた環境のためバイオサイエンス産業が盛んで、大学でのバイオテクノロジーの研究は世界でもトップレベル。映画産業も世界的に注目されており、アニメやゲーム、映像効果などのメディアデザインで優れたプログラムを持つ大学も数多くあります。
総合大学のほかに、職業訓練にフォーカスし、学士・修士・博士号までの資格取得も可能なITPと呼ばれる「工科大学・ポリテクニック(Institute of Technology and Polytechnic)」が全国に21校あります。ITPはニュージーランド特有の国立高等専門教育機関で、インターンシップやフィールドワークなどの実践活動が組み込まれたアクティブラーニング型の教育スタイルを特徴としています。美術、デザイン、ファッション、漁業、海洋学、航空、IT、ビジネス、ホスピタリティ、観光業など多岐に渡るコースがあり、即戦力の人材育成に重点を置いています。取得できる資格も幅広く、ディプロマ・サーティフィケートといった短期コースから、学士・修士・博士号まで提供しています。
ニュージーランドの高等教育の制度では、大学入学前に日本の大学1年次に履修する教養課程に当たる内容と、専攻分野に進むための基礎科目を修了しており、入学後すぐに専門課程に入ります。日本とは制度が異なるため、通常、日本の高校卒業だけではほとんどの大学で入学資格としては不十分とされています。日本の高校を卒業してニュージーランドの大学に入学する際は、学力や英語力が入学基準を満たしていない場合、1年間の大学進学準備コース(ファウンデーションコース)を履修後、各学部に入学するのが一般的です。大学進学準備コースは、大学が独自に設けているものと、工科大学・ポリテクニックや私立の高等教育機関が開講しているコースがあり、大学で専攻する分野の基礎知識と共に、英語やカレッジスキルと呼ばれるレポートの書き方やノートの取り方などを学びます。
なお、学生ビザを持っているフルタイム(週20時間以上のコース)の学生は、学期中は週最大20時間、休暇中は制限なく働くことができるのもニュージーランドの特徴です。
ユニークな学部・学科をもつニュージーランドの大学 ~5校~
キャンパスのある国・地方の風土や環境、文化、その土地の産業などと結びついたり、影響を受けたりしている特徴的でユニークな学部・学科・専攻を持つニュージーランドの大学を5校ピックアップしました。
ワイカト大学(The University of Waikato)
マオリおよび先住民研究(Māori and Indigenous Studies)
ニュージーランドの北島中心地・オークランドから約 130 km南にあるハミルトンにメインキャンパスを構える、1964年創立の国立大学。全学生数約13,000人のうち、およそ2,800人が留学生です。また、ニュージーランドの先住民族であるマオリ族とパシフィック系(太平洋諸島出身)の学生が多く在籍しており、マオリ族の文化や、太平洋諸島・オセアニアの地域文化・歴史を研究するマオリ研究、太平洋学はニュージーランドで最も進んでいると言われています。
新しい大学でありながら、国内でも近代的、革新的な大学の1つに数えられており、大自然に囲まれた環境に立つ近代的な校舎で学術研究が盛んです。官公庁や企業との共同研究も幅広く行われ、オークランド地域をはじめ国内外の社会・経済発展に寄与しています。創立50年未満の大学が対象の 「THE Young University Rankings 2019」では64位にランクされており、「QS World University Subject Rankings 2019」では10の科目でトップ200にランクインするなど、その教育水準の高さは国際的に認められています。
同大学では幅広い科目、コース、学位が提供されています。柔軟な学位構造を備えているため、興味やキャリアプランに合わせてプログラムを構築することができます。教育、コンピュータ科学・情報科学、経済学、法学、コミュニケーション、音楽・芸術等の分野で高い評価を受けています。
その中でもユニークな学部が「マオリおよび先住民研究(Faculty of Māori and Indigenous Studies)」。マオリの言語と言語学、文化、習慣、創造的芸能、メディアとコミュニケーション、ワイタンギ条約、開発研究などの多様なプログラムを提供しています。学部課程としては、Bachelor of ArtsまたはBachelor of Social Sciencesの学士号を取得可能です。教授陣には国際的に有名な先住民学者をかかえ、マオリの文化、言語、知識について学ぶことで、ニュージーランドのユニークな先住民文化がニュージーランドのアイデンティティをどのように定義しているかを理解していきます。また、マオリ研究がより広い先住民研究においてどのような世界的文脈で位置づけられているかも学びます。同学部は国内有数のマタウランガマオリ(マオリの知識)センターの1つとして評価されており、持続可能な開発と先住民族の問題に関して世界的なリーダーシップを発揮しています。
オークランド工科大学(Auckland University of Technology:AUT)
建築(Architecture)
ニュージーランド北島の最大都市オークランドに位置する工科系総合大学。1895年にAuckland Technical School(オークランド科学技術校)として設立され、その後、学士・修士の学位を授与できるポリテクニックに認定されるなどの歴史を経て、2000年に博士課程まで備えた現在のオークランド工科大学(AUT)となった、ニュージーランドで最も新しい国立大学です。オークランド市内に3つのキャンパスを持ち、学生数は約3万人と国内で2番目に規模の大きい大学となっています。また、世界150か国から5,400人以上の留学生を受け入れており、THE World University Rankingsでは「International Outlook(国際展望)」の分野で常にニュージーランドで1位にランクされるほど、グローバルな環境が特徴的な大学でもあります。
AUTではアートとデザイン、建築、ビジネス、創造的なテクノロジー(コラボ)、コミュニケーション研究、教育、工学・コンピュータ・数学、健康科学、ホスピタリティ・観光・イベント、言語と文化、法律、科学、社会科学と公共政策、スポーツとレクリエーション、マオリ開発の分野で、コラボレーションと革新的な教育に重点を置いた250を超える学位取得コースが提供されています。世界レベルの施設と高い研究レベルを誇る教授陣が揃っており、少人数制かつ対話形式の授業で学生に焦点を当てた教育が展開されています。実践的な教育に強みを持ち、企業や産業界とのつながりも強いため卒業生の就職率も95%と非常に高くなっています。
中でも注目は、建築学の分野。AUTには、構築環境に焦点を当てたプログラムを提供するという長い伝統があり、最近になってニュージーランドおよび世界中で、構築環境を全体で考えるプロジェクトに取り組む建築のプログラムが追加されました。建築の研究を通して、先住民の価値を認識し、オークランドの急速な人口増加、住宅の手頃な価格、地球温暖化、ホームレスなどの世界的な問題に対処する構築環境の設計を学びます。学部課程では、Bachelor of Architecture and Future Environments(建築学と将来の環境)、Bachelor of Design in Spatial Design(空間デザインにおけるデザイン)、Bachelor of Engineering (Honours) in Architectural Engineering(建築工学における工学<優等>)の学士号を取得することができます。
オタゴ大学(University of Otago)
遺伝学(Genetics)
ニュージーランド南島の南部に位置し、スコットランドの雰囲気が漂うビクトリア朝の建物が多く残る学園都市ダニーデンの中心部に、広大なメインキャンパスを構えるオタゴ大学。およそ150年前にあたる1869年創立と、ニュージーランドで最も古い歴史と伝統を誇る国立大学です。3,000人近い海外からの留学生を含む、2万人を超える学生が充実した設備を持つ良好な学習環境の中で学んでいます。
同大学は、健康科学、人文学、科学、ビジネス(商学)の4つのDivisionに分かれており、学部および大学院で提供されている学位プログラムは200以上にのぼります。法学、考古学、 開発学、教育学、地理学、生理学、歯科医学、医学、スポーツ関連学などの分野において、質の高い教育と研究で国際的に高い評価を受けています。とくに、ニュージーランド発の医学部を併設したという歴史があり、また現在も国内で唯一、歯科学部を提供していることもあって、医学・健康科学系のコースは世界的に認められています。医学・健康科学の分野では、クライストチャーチやウェリントンにもキャンパスがあり、ともに研究水準が高いことで知られています。そのほかにも、測量スクールや独立した植物学プログラムなど、ニュージーランド唯一となるプログラムをいくつも提供しているのが特徴です。
医療系の中でも注目したいのが、学部レベルから学べる遺伝学(Genetics)。この学問分野は遺伝子と遺伝の研究であり、生命の分子基盤から生物全体、個体群、進化の研究まですべてを網羅しています。遺伝学は急速に進歩している科学、かつ現代生物学の中心テーマであり、ほとんどの生物学的研究の重要な要素となっています。医学から農業、環境まで、人間の生活のあらゆる側面に影響を与える非常に多様で関連性の高い分野です。同大学の遺伝学教育プログラムは、ニュージーランドで最も成功しているプログラムと言われており、現代の遺伝学を包括的に学ぶために、解剖学、生化学、植物学、微生物学および免疫学、病理学、女性と子供の健康、動物学といった複数の学科の専門知識を結び付けたものになっています。このユニークな学際的なセットアップにより、幅広い研究範囲でアイデアを共有できるとともに、大学全体で最先端の研究を活用することができるようになっています。
リンカーン大学(Lincoln University)
ワイン醸造学(Wine, Food and Molecular Biosciences)
ニュージーランド南島最大の都市クライストチャーチの郊外に位置するリンカーンにキャンパスを構える国立大学。もともとは1878年にカンタベリー大学の農業学校として開校されました。その後、農業がニュージーランドの国際貿易の重要な基盤になるにつれて学校は大きく成長し、1990年にリンカーン大学として独立した機関になりました。南半球最古の農業学校として知られ、自然あふれる豊かな自然環境の恩恵もあり、農学・畜産学・園芸学・バイオテクノロジー等の研究においては、世界でもトップクラスの研究水準を誇っています。
学部は農業ビジネス・商学部(Faculty of Agribusiness and Commerce)、農業科学・生命科学部(Faculty of Agriculture and Life Sciences)、環境・社会・デザイン学部(Faculty of Environment, Society and Design)の3つに分かれており、それぞれ学士課程から博士課程までを提供しています。農業ビジネス・商学部では、効果的で持続可能な農業ビジネスの運営方法を学びます。農業科学・生命科学部では生物学、技術、その他の科学分野の知識を通じて農業生産性を向上させることに焦点を当てています。環境・社会・デザイン学部では景観建築や観光などの分野を扱います。
バイオテクノロジー分野の成長が著しい農業大国・ニュージーランドで最初に生まれた農業学校を母体としているだけに、とくに農業科学・生命科学部の各コースは非常に高い評価を得ています。学部内はさらに農業科学、土壌および物理科学など4つの学科に分かれていますが、注目はニュージーランドで唯一、ワイン醸造学を学べる、ワイン、食物、および分子生物科学科(Wine, Food and Molecular Biosciences)。同学科は、動植物科学、生化学、食品科学、園芸、微生物学、感覚科学、ブドウ栽培とワイン科学といった専門分野を学び、ブドウ栽培とワイン学の学士号【Bachelor of Viticulture and Oenology】、または科学(食物科学)の学士号【Bachelor of Science (Food Science)】を取得することができます。大学専用のブドウ畑、農業試験場、ワイン醸造所などをニュージーランド各地に所有しており、ブドウの栽培から収穫、ワインの醸造までに必要な知識と技術を一貫して身に付けることが可能で、国内外のワイン産業に優秀な人材を輩出し続けています。
マッセイ大学(Massey University)
獣医学(Veterinary Science)・獣医技術(Veterinary Technology)
ニュージーランド北島パーマストンノースに拠点を置く国立大学。パーマストンノースのメインキャンパスのほか、オークランドとウエリントンにもキャンパスを構え、3つのキャンパスすべてで研究主導の教育と研究トレーニングを提供しています。1927年に農業系の学校として設立され、現在では学生数が4万人(約5,000人の留学生を含む)を超え、ニュージーランド最大の総合大学となっています。農業系のプログラムが有名なのはもちろんですが、航空、紛争解決、獣医学、ナノサイエンスのコースを提供しているニュージーランドで唯一の大学としても知られています。
同大学の研究・教育部門は、クリエイティブアーツ、健康、人文社会科学、科学、ビジネスの5つのカレッジに分かれており、40を超える学問分野でコースが用意されています。
科学のカレッジは、6つのスクールと高等研究所で構成されています。最も注目したいのが国内唯一の獣医学プログラムを提供している獣医学部(School of Veterinary Science)。もともとニュージーランドは獣医学が盛んな国ですが、同大学の獣医学部の質は「QS World Rankings 2019」で29位と非常に高く評価されています。
獣医学部では、コンパニオンアニマル、農場の動物、野生動物の健康、福祉、生産性を維持するスキルを備えた獣医の専門家になるために必要な、学位プログラムを2つ提供しています。
・獣医学の学士号【Bachelor of Veterinary Science(BVSc)】:
ニュージーランドで獣医師として正式に登録、働くことができる資格です。5年間のプログラムになります。BVScプログラムは国際的にも広く認められており、学位を取得するとニュージーランドだけでなく、オーストラリア、イギリス、カナダ、アメリカ、その他多くの国でも獣医として働くことが可能です。
・獣医技術の学士号【Bachelor of Veterinary Technology(BVetTech)】:
動物保護を目的とした活動に参加でき、他の獣医とパートナーシップを組んで働くことができる資格です。プログラムは3年間です。動物福祉の改善のために科学技術を利用していく学問分野となり、獣医技師は、重要な外科的処置、診断、および薬の処方を除いた獣医と同様のタスクを実行する役割を持ちます。プログラムでは、獣医学のコアサイエンス(獣医技術の学生向け)、および正常な動物の構造と機能の異常を研究します。また、動物の世話をする方法や、獣医師が動物を正常な機能に戻す方法を学びます。
本シリーズの次回は、「イギリス編」として、ユニークな学部・学科をもつイギリスの大学を5校ご紹介します。お楽しみに!
※この記事でご紹介している内容は2020年1月31日現在の情報に基づいています。